謎の記憶

雪の日に、両親のどちらかが押す乳母車に乗せられて、家族で家の前の通りを右折する、という古い記憶があります。先日「具体的に場所と時期がわかっている一番古い記憶」について書きましたが、これはそれよりも古い記憶です。ただ、不思議なのはこの「家族で雪の中を歩いている」という状況を後ろから見ている、という光景で覚えていることです。

後ろからみんなを見ているのに、「あの乳母車に乗っているのは私だ」と思っているということは、どうも現実ではなさそうです。記憶や思い出は時間がたつごとにどんどん曖昧で不正確になっていきますが、この矛盾した記憶が一番古い記憶だというのはたぶん本当です。と、いうのも「『これが覚えていることの中で一番古い』と、幼児の頃に思ったこと」を覚えているからです。幼児の頃は、この出来事からそんなに時間もたっていないせいか、「これが一番古い」ということが感覚的にはっきりわかっていました。今はもう「幼児の時にそう思っていたからそうなんだろう」という方法でしか確認できません。

両親が、私と兄のものとを分けて何冊もアルバムにまとめていたため、赤ん坊から中学生くらいまでの写真がたくさん残っています。子供の頃、そのアルバムを見るのが好きでした。授業で教わったことをその日のうちに復習すると忘れにくいように、子供のうちに子供の頃の自分の記憶を復習していたので、その頃の記憶が鮮明です。中学生頃から写真の枚数がグッと減って、自分で写真を見返すこともあまりなくなったせいか、そのあたりからの記憶の方が密度が薄いように感じます。

そう言う訳で、「この記憶が一番古い」という自信はあります。しかし、現実にはあり得ない状況なので、これは「一番古い夢の記憶」かもしれないと思うようになりました。もう一つ思いあたるのは、「これは私の記憶ではなく、兄の記憶だ」という可能性です。子供の頃、自分のアルバムと一緒に、3つ年上兄のアルバムもよく見ていました。赤ん坊の頃の兄や、自分と同じ歳の兄の写真も何度も見たので、どこかで記憶が混ざっていたとしてもそう不思議ではありません。「雪の日に、乳母車に乗る私と傍らの両親を、後ろから見ている」という3歳の兄の気持ちに、子供の頃に共感していたのかもしれません。
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by mag-akino | 2012-03-10 11:45


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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