お気に入りの他人の思い出

人の思い出で、たまに「これが自分の体験談だったらいいのに」と思うような羨ましいものがあります。大学生の時に喫茶店で、友達の彼氏の名前も忘れた男性から聞いた話が、今までに聞いた中で一番「自分のものにしたい」と思った他人の思い出です。

「真夏にバイクで走っていたら、ヘルメットにパシパシ羽虫がぶつかってきた。虫が多いなと思いつつ走りつづけていたら、バシッとぶつかってきた虫が大きな声で『イテッ』と言った。」

もう連絡がとれない人なので書いていいかの許可もとれませんが、いい話で勿体ないので書いてしまいました。私はオートバイには乗れないのですが、自転車で蚊柱に突っ込んだ時のことを思い出すと、羽虫がパシパシする感じは想像できます。でも虫(たぶん黄金虫だと思う、とのことでした。)の「イテッ」という声がどんなふうだったのか、肝心のところが想像しきれないので、「これが自分の思い出だったらいいのに」と、どうしても思ってしまいます。

「2001年版逆さの思い出」というマンガで、「他人の体験談を羨んで、何回も思い出していたら次第に自分の体験談のような気がしてきた」ということを描きました。このマンガに出てくる「他人の思い出」は、友達の子供の頃の体験談でした。この友達は女性で、そこのところも自分に置き換えやすいし、子供の頃、というのも自分が子供の頃に体験したいろいろな変なことに混ぜてしまうとそう違和感もないので、自分のものにしやすかったのだと思います。「虫がイテッと言った話」の方は、どうも上手くいきません。もし今後、私が本当に虫の声を聞くような機会があった場合、「『イテッ』という声を何度も思い浮かべていたから、聞こえたような気がしただけではないか」と疑ってしまう気がするので、このままで行くともう一生、私には虫の声は聞こえなそうです。

今ではもう一括りに「だいぶ前のこと」という枠に入っていますが、子供の頃に体験したいろいろな変なことも、それぞれに前後関係があったはずです。名前はもう忘れましたが、その男性が誰の元彼氏だったかや、その喫茶店が目白にあったことは覚えています。いつどこで誰から聞いた話かも思い出せないくらい時間がたったら、自分の思い出にできるのかもしれません。
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by mag-akino | 2012-03-16 16:37


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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