ネズミのぬいぐるみ

5歳くらいの頃、野原でネズミのぬいぐるみを拾って、母親に見せたら叫び声をあげました。捨てなさい、というので捨てたのですが、あれはネズミの死体だったようです。

自分できちんと「死体だ」と確認はしなかったのですが、たぶん死体だったのだと思います。大人になると遠目でも死体とわかるのに、5歳だと触ってもまだぬいぐるみだと思っていました。この時ネズミは二匹落ちていて、私につられて拾った一つ歳上の男の子は一瞬「あれ?」と躊躇していました。「あれ?」と疑うくらいの観察力が、5歳から6歳の間でつくようです。7歳の子供だったら、もう拾わなかったかもしれません。

「すごく良く描けた」と思った絵を数年後に見返して、「なぜこれで、すごく良く描けたと思ったのだろう?」と思うことがあります。その間に趣味が変わったというより、目が良
くなって悪いところが目につくようになったからなのですが、これは今でもよく体験します。音楽や料理に関して、「数年前は良いと思ったのに、今はもう全然だめだ」と感じたことはありません。たぶん耳と舌をいい加減に使っている分、鑑賞力に伸びがないのだと思います。同じミュージシャンでも、数年前と今とではものすごい力量の差があるのに、私のいい加減な耳で聞くと大差ない、ということになっているかもしれなくて、そう考えると申し訳ないような気がします。

それに比べると目は良くなっている実感があり、作品も目に合わせて上げようとしている分、だいぶ前の作品を褒められてしまうとギクリとします。単純にその作品を褒めてくれているだけでも、「では今の作品は一体どうなんだろう」と気になってきて、目の力がどうのこうのという以前に何か勘違いがあるのかも、と根底から覆されるような衝撃があります。

高校3年生の時に初めて描いた「女子校生活のしおり」というマンガを読み返すと、ヘタさにヒヤリとしつつ「これが今までで一番良い作品かもしれない」と思います。とにかく力不足で「描けない絵」がやたらと多く(手足とか風景とか)、ストーリーに合わせた絵を描くだけで一苦労だったのですが、一週間でなんとか仕上げた情熱による説得力のようなものがあります。「目が良くなる」というのは、巧いヘタを見分けられる、という意味だけではないつもりですが、目が良くなってもなかなか出せない良さ、というものもあります。

『はこにわ虫』という私のマンガ単行本の解説で、林静一さんが「作家は、その処女作に、その作家の生涯にわたる主題を書き記していると言う」と書かれています。「生涯にわたる主題」がなんなのかはわかりませんが、あのマンガにはそれがあるような気がします。
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by mag-akino | 2012-03-30 08:07


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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