絶対に効くおまじない

何か困ったことがあったら唱えなさい、と言われてそのおまじないを教えられたのは12歳の頃だった。おおまかに言うと「呪文」のような複雑な言葉なのだが、小学生の私には困ったことなど特になかった。そもそも「めったなことで使ってはいけません」という意味を込めてそう言ったのだと思う。

ふと思いついて、その言葉を唱えてみたのは中学2年の席替えの時だった。私のクラスでは約40個の机に端から番号をふり、くじ引きで席を決めていた。あの席に座りたいな、と軽い気持ちで3回唱えてくじをひいたら、その席の番号が引けた。それから1年間、席替えの度に「あの席」と決めてくじを引くと毎回その席に座れた。確か5回くらい席替えをしたので、40の5乗の確率でくじ引きに成功していた訳だが、偶然とは思えない確率である。最後の方は移動するのが面倒なので同じ席に座っていた。担任の先生が困った顔をしていたのを覚えている。

不思議なのは当時の私が、このことについて全く不思議だと思っていなかったことである。当然効くものと思ってその言葉を唱え、当然のようにその席の番号を引いてそこに座っていた。それだけである。ただ、最後に思い通りの席を引いた後、「この言葉はめったなことで使ってはいけないんだろうな」とようやく気づき、それ以来席替えで使うのをやめた。

さて、次に私がこの言葉を唱えたのは大学受験の時である。大学受験といえば人生の一大事で「めったなこと」であると思ったのだ。私は実家から近い、学費が安い、合格者人数が少ないので受かると格好良い、という単純な理由で東京藝術大学のデザイン科への入学を希望していた。一次試験の鉛筆デッサンがはじまる前に、久しぶりにその言葉を唱えた結果はあっけない一次落ちで、仕方なく多摩美術大学のグラフィックデザイン学科に通うことになった。

ここでまた不思議なのは、私がこの時に「おまじないが効かなかった」とは思わなかったことである。第一希望の藝大に行けなかったのはガッカリだったが、「きっと多摩美に行った方が結果的に何か良いのだろう」と思い、そのままこのおまじないの効果を今でも信じている。多摩美に進学して良かったと思う点はいろいろあるが、藝大に通ったことはないので、本当に多摩美の方が良かったのかはわからない、と冷静に考えることはできるのだが、やはり今でも「絶対に効くおまじない」だと思っている。今後もめったなことでは使わないと思う。
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by mag-akino | 2012-08-12 08:31


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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