飛んでいったエビの話

高校生の時、大正沼エビを飼っていた。ペットショップで見かけて気に入って、金魚鉢で飼い始めたのだが、3㎝くらいの透明なエビで、よく見ないとどこにいるかわからなかった。

ある日、そのエビがどこかに消えてしまった。カルキ抜きのために日に晒しておいた水と入れ替えようと、金魚鉢を持ってベランダに出たらもうどこかに消えてしまっていた。見えないだけでどこかにいるのだろうと、最初はのんきに探していたのだが、本当にいなかった。さっき居間で鉢を覗いた時には確かにいた、そういえば以前、水を替えようとした時にピョンと跳ねて逃げようとしたことがあった、と思い出し、周りを見渡し、居間からベランダまでのルートを念入りに探したがやはりいなかった。ピョンと跳ねて7階のベランダから下に落ちてしまったのかも、と思いついてゾッとした。

一応、下を見てみたが、もちろんエビは見えなかった。どうしたらいいのだろう、と途方に暮れたがどうしようもなかった。7階から落ちたらエビは死ぬのだろうかと考え、エビは軽いから意外と大丈夫かもしれないと思った。中学校の理科の授業で、地中に住むエビがいると習ったなぁ、とか、いや、それとも風に飛ばされてしまったかもしれない……などと考えているうちに、なんだか腹の底からおかしくなってしまい、いけないと思い笑いをかみ殺して、台所にいた母に「エビが飛んでいった」と報告した。

さて、それから数日後。ゴミを捨てようと台所にいったら、ゴミ箱の脇に何か落ちていた。なんだろうと拾ってみたら、カラカラに乾燥してカップヌードルのエビのようになった私のエビだった。エビは焼いたりゆでたりしなくても、ひからびると赤くなると初めて知った。風に吹き飛ばされる姿を想像して私がニヤニヤしていた時、エビは実際には居間から台所に向かってピョンピョン跳ねていたのである。

カップヌードルのエビを見る度に、風に飛ばされるエビを思い浮かべ、腹の底から笑いがこみ上げてくる。ひどい話である。

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by mag-akino | 2012-09-10 11:40


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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