何を考えているのかわからないTさん

ずいぶん以前の知り合いにTさんという人がいた。あまり親しくなかったのだが、私はこの人がなんだか気になっていた。気になっていたのは、「こわい」と思っていたからである。Tさんが何を考えているのかサッパリわからなかったからだ。

人と会話をすると、その人が発言していることとは別に、その人の本心というのが表情や言葉遣いからなんとなく透けてみえるものである。それで、本当はそう思っているのに、そう言わないなんていい人だなとか悪い人だなとか感じつつ、相手を知っていくのが通常だと思う。しかし、Tさんの場合、表情からは何を考えているのかが全く伺えなかった。それでも、なんとなくこうかな、と会話を続けると、全然違う反応をしたり、全くその通りのことを言ったりと、その時々なので、いつまでたってもTさんの人柄がつかめなかった。それで「この人こわい」と思うようになったのである。

そんなTさんが、突然こわくなくなった。ある日、いつものようにTさんがサッパリわからなかったので、仲の良かったMさんに「Tさんが何を考えているのかサッパリわからない」ともらした時のこと、Mさんは間髪を入れず「Tさんは何にも考えてないよ」と答えたのである。

そう言われてみると、何を考えているのかわからない無表情はただぼんやりしているだけにもみえるし、予測不可能な言動の数々もその場その場で適当に対処しているのだとすると納得がいく。私自身、「何を考えているかわからない」と言われる時は大抵何も考えていないから、Mさんの意見は当たっている気がした。要するに、私はTさんを畏れていたのだが、MさんはTさんをアホだと思っていた、ということである。それ以来、Tさんがこわくなくなった。

一応、「何も考えていない」ということで腑に落ちたのだが、Tさんとはそれ以降も仲良くはならなかった。今考えてみると、私は特に理由もなく言葉にするほどでもなくTさんが嫌いだったのだと思う。そして、たぶんTさんも同じように私が嫌いで、お互いにいい加減に会話していただけではないか。気が合わないもの同士、「この人何考えているかわからなくて不愉快」と感じ、「この人アホかも」で片付けていたのである。

Tさんが本当に何も考えていなかったのか、私のことを嫌いだったのか、私はアホなのかそうでないのかはわからないが、わからない、という状態はこわいことである、という話である。
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by mag-akino | 2012-10-26 08:42


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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