物忘れ防止法

まだ幼稚園に通っていたある日、私は微熱で幼稚園を休んだ。そして、居間のソファで毛布にくるまってテレビをみていた時のことである。母は掃除機をかけており、私はイヤホンで音声を聴いていたのだが、「ちょっとごめんね」と言って、母がイヤホンのコードをまたいだ時、なぜか「今、見ているこの光景を忘れないだろう」と思い、今でも本当にこの時の光景を覚えている。

この、「『この光景を忘れないだろう』と思う」、というのは、物忘れを防ぐのにかなり効果的である。何か忘れると困ることがある際に「この光景を忘れない」と自分に言い聞かせると、本当に忘れない。「光景」なので、やはり視覚的なことに効きやすい。

私はこの物忘れ防止法のことを、「記憶に付箋を貼っておく」というイメージでとらえている。どうやら私は、記憶とは何か「付箋を貼れるもの」、つまり本とか巻物とか紙に書かれたものだと無意識に思っているようなのだが、最近までそれに気がつかなかった。こういうふうに、形のないものを形のあるものに喩えてイメージする、ということを何か他にもしているのかもしれない。

ついでに、この思い出について書いてみて気になったのは、「光景」という言葉である。幼稚園生の私が「光景」という言葉を本当に知っていたかは疑わしい。知っていたとしても、日常的に使っていたとは思えない。たぶん「この光景」というのを別の言葉で表していたはずなのだが、それがなんだったのかは忘れてしまった。

しかし、記憶が本のようなものだと考えると、忘れてしまったことも、付箋を貼られていないどこかに書かれているはずで、本当になくなってしまったのではないのだと思える。印がないので、なかなかそのページが開けないのである。


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by mag-akino | 2013-07-26 12:19


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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