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「女子中学生」と大便事件

六月の帰国中、写真家の梅佳代さんと編集の田中さんと三人で食事をすることになった。私のエッセイマンガの担当の田中さんが、梅佳代さんとも親交があり、せっかくなので三人で御飯でも食べてみませんか、と誘ってくださったのである。

梅佳代さんとお会いしたのはこれが二度目である。一度目は、この数日前、現在開催されている展示のレセプションであった。そして、「女子中学生」というのは、この展示で梅佳代さんが出品している作品のタイトルである。

「女子中学生」は、恥ずかしいような切ないような不思議な作品である。私個人の印象で失礼ながら簡単に説明すると、女子中学生が仲間で盛り上がっているうちにたがが外れて、本当は人にみせてはいけない部分をさらけだしてしまった瞬間を、まだ十代だった梅佳代さんがすかさず押さえた作品である。みていてなんだか恥ずかしくなるのは、「自分にもそんなところがあったな」と思うからで、切なくなるのは「自分はもうああはなれないな」と彼女たちの明るい笑顔をみて感じるためである。

写真家というのもまた、私にとっては不思議な存在である。先日、メトロポリタンミュージアムで開催されているGarry Winograndの展示会場で、「New York World's Fair」という作品を観た時にも感じたのだが、「どうしてこの瞬間を撮ることができたのか?」と不思議なのだ。現像された写真を観ると「ああ、私もこういうハッとする光景を見たことがあるなぁ」とは思うのだが、私にはそれが撮れないのである。その瞬間にシャッターを切った反射神経ももちろん素晴らしいのだが、何かに「ハッとする」感覚自体が鋭いのだろう。私にそれが撮れないのは、そういう瞬間に「ハッとしなかった」か「ハッとしたことに気づかなかった」からだと思う。

そう言えば、レセプションの最中に、梅佳代さんがシャッターを切った時も驚いた。キュレーター・館長の言葉の後、壇上に並んだ作家の紹介が終わった時、お客さんが拍手を始める前の一瞬のところで、私の隣に立っていた梅佳代さんが突然、壇上からお客さんに向かってシャッターを切ったのである。あの、なんだか変な一瞬の間のことを思い返すと、やはり「ハッとする」のであるが、私はその時には気づかなかった。それにしても一瞬のことであるから、もしかしたら「ハッとしてからシャッターを押した」のではなく、「ハッとする予感がしてカメラを構えて待っていた」のかもしれない。そのくらいの素早さであった。

さて、六月のその日、恵比寿で真面目に打ち合わせをすませた田中さんと私は、「すっかり馬喰町で待ちくたびれている」という梅佳代さんの元へ向かった。(なぜ、待ち合わせの時間が決まっていたのに、待ちくたびれる状況になるのかがよくわからない。)

ちなみに梅佳代さんと私は、生まれ年は違うが同じ学年の同級生である。大学卒業以降、同級生と出会うことはめったになくなり、その日私は「久しぶりに同い年のお友達ができるのでは」とときめいていた。そんな訳で、馬喰町で合流した私たちは、嵐の大野君、小池栄子、壇蜜などが同じ学年である、と同級生ネタで盛り上がった後、「女子中学生」の話になったのである。女子中学生の頃はああいう「力」みたいなものがありましたね、と三十三歳同士で納得していたら、ふと高校生の時に友達からきいた話を思い出したのだった。

私が通っていた美術予備校で、別の高校に通っていた一つ歳上の女の子からきいた話である。中学の修学旅行の夜、なんだか盛り上がった彼女たちは、最終的には大便を投げ合ってしまったというのだ。

ふと思い出して話したら、二人があまりに驚愕してくれるので、私もつられて「改めてビックリ」してしまった。オチャビ時代にきいたオモシロエピソードの一つと思っていたが、確かによく考えるととんでもない話である。まず、どういう経緯で①自分の大便を人にみせ、②それを手に取り、③人に投げたのか、全然わからない。(キャッチボールのように投げたか、雪合戦のように投げたのかは知らない。)①から③まで、どれも「越える」のにかなり気合いがいる高い壁であり、どういう盛り上がり方をしたら、そこを乗り越えられるのはわからないし、超えたくない。私たちはひとしきり驚愕した後、そういうことができるのも「女子中学生の力」なのかもしれませんね、と三十代の女三人でシミジミしたのであった。

ニューヨークに戻ってからも度々「大便事件」のことを思い出しては「女子中学生って恐ろしい」と思っている。しかし、三十代の私たちも、「大便事件」で驚愕した後、どういう流れか忘れたが、最終的には三十代女性の結婚と出産、そしてワーキングプアなど、真面目な話をして「ニューヨークにも遊びに来てね〜」と別れたのだから、まだまだ「飛躍する力」は残っているようである。



「女子中学生」と大便事件_b0221185_5224420.jpg

by mag-akino | 2014-07-05 05:30


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


by mag-akino

近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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