<   2012年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

ネズミのぬいぐるみ

5歳くらいの頃、野原でネズミのぬいぐるみを拾って、母親に見せたら叫び声をあげました。捨てなさい、というので捨てたのですが、あれはネズミの死体だったようです。

自分できちんと「死体だ」と確認はしなかったのですが、たぶん死体だったのだと思います。大人になると遠目でも死体とわかるのに、5歳だと触ってもまだぬいぐるみだと思っていました。この時ネズミは二匹落ちていて、私につられて拾った一つ歳上の男の子は一瞬「あれ?」と躊躇していました。「あれ?」と疑うくらいの観察力が、5歳から6歳の間でつくようです。7歳の子供だったら、もう拾わなかったかもしれません。

「すごく良く描けた」と思った絵を数年後に見返して、「なぜこれで、すごく良く描けたと思ったのだろう?」と思うことがあります。その間に趣味が変わったというより、目が良
くなって悪いところが目につくようになったからなのですが、これは今でもよく体験します。音楽や料理に関して、「数年前は良いと思ったのに、今はもう全然だめだ」と感じたことはありません。たぶん耳と舌をいい加減に使っている分、鑑賞力に伸びがないのだと思います。同じミュージシャンでも、数年前と今とではものすごい力量の差があるのに、私のいい加減な耳で聞くと大差ない、ということになっているかもしれなくて、そう考えると申し訳ないような気がします。

それに比べると目は良くなっている実感があり、作品も目に合わせて上げようとしている分、だいぶ前の作品を褒められてしまうとギクリとします。単純にその作品を褒めてくれているだけでも、「では今の作品は一体どうなんだろう」と気になってきて、目の力がどうのこうのという以前に何か勘違いがあるのかも、と根底から覆されるような衝撃があります。

高校3年生の時に初めて描いた「女子校生活のしおり」というマンガを読み返すと、ヘタさにヒヤリとしつつ「これが今までで一番良い作品かもしれない」と思います。とにかく力不足で「描けない絵」がやたらと多く(手足とか風景とか)、ストーリーに合わせた絵を描くだけで一苦労だったのですが、一週間でなんとか仕上げた情熱による説得力のようなものがあります。「目が良くなる」というのは、巧いヘタを見分けられる、という意味だけではないつもりですが、目が良くなってもなかなか出せない良さ、というものもあります。

『はこにわ虫』という私のマンガ単行本の解説で、林静一さんが「作家は、その処女作に、その作家の生涯にわたる主題を書き記していると言う」と書かれています。「生涯にわたる主題」がなんなのかはわかりませんが、あのマンガにはそれがあるような気がします。
b0221185_851380.jpg

[PR]
by mag-akino | 2012-03-30 08:07

深刻だけど悩んでいない

子供はいろいろな勘違いをしているものですが、私の子供の頃の勘違いで大規模なのは、「ベランダから見える向かいのマンションを、自分が住んでいるマンションだと思っていたこと」です。

よくベランダから通りを見たり、シャボン玉をしたりしていたのですが、そんな時に向かいのマンションを見て、「なんで玄関の作りがいつもとちょっと違うんだろう」と思っていました。向かいのマンションは階数も違うし、玄関の向きも違うし、そもそも別の建物だから違って当たり前なのですが、「まあ、気のせいだろう」くらいに思って適当にごまかしていました。自分の住んでいるマンションのベランダから見ているのに、「あそこがうちのマンションだ」と勘違いした理由も理屈も全くわかりません。

もう一つ、子供の頃よくわからなかったのは、電車の進行方向です。なぜ、行きの時に電車に乗ったホームと帰って来た時に降りるホームが逆なのかがわかりませんでした。「電車の線路は輪になっている」と思っていたことも勘違いの根底にあるのですが、このホーム問題も「まあ、いいか」くらいに知らんふりしていました。

子供ならいいのですが、実は、中学高校の電車通学で6年間利用していた地下鉄日比谷駅のホームで、「電車がどちらからやって来るのか」がはっきりわかりませんでした。朝、こっちのホームに着いた時は確かこっちから歩いてきたから、こっち?でも乗る電車を待っている時は左を向いていた、ということはやっぱりこっち?という感じでなんだか自信が持てないのです。

今でも、「電車の前の方と後ろ方のどちらに乗ると、乗り換え口に近いのか?」がよくわかりません。これも通学で6年間使った六本木駅なのに、日比谷線の先頭と後ろのどちらに乗ると、森美術館に近いのかがどうしても覚えられませんでした。学生の時とルートを変えたせいもあり、そもそもホームで日比谷線を待つ段階で、左右どちらから電車がくるかが自信がないために、どちらのホームの端で電車を待っていればいいのかすら、しばらくの間わかりませんでした。いつになっても感覚的にパッとわかるようにならなかったので、あきらめて最終的には語呂合わせで覚えました。さらに、六本木の数駅先の中目黒にあったミヅマアートギャラリーに行く時は、前と後ろのどちらに乗ると階段に近いのか?ギャラリーから森美術館に行く時は電車のどこに乗れば便利なのか?私にはややこしすぎるので、もう考えようともしませんでした。これは地下鉄の場合だと特にひどく、ニューヨークの地下鉄のホームで予想と反対の方向からふいに電車が来てビックリすることがよくあります。

駅の表示を見たり、人より長く歩いたり、家を早めに出れば特に支障はないので、今までなあなあでやってきました。「ちょっとこれはいくらなんでもまずい」という自覚はあり、人と比べたこともないのですが、かなり深刻な方向音痴だと思います。向かいのマンションに対する勘違いも方向音痴のせいでしょうか。あそこで適当にごまかしていたから、改善しなかったのかもしれません。
b0221185_8225724.jpg

[PR]
by mag-akino | 2012-03-23 08:28

お気に入りの他人の思い出

人の思い出で、たまに「これが自分の体験談だったらいいのに」と思うような羨ましいものがあります。大学生の時に喫茶店で、友達の彼氏の名前も忘れた男性から聞いた話が、今までに聞いた中で一番「自分のものにしたい」と思った他人の思い出です。

「真夏にバイクで走っていたら、ヘルメットにパシパシ羽虫がぶつかってきた。虫が多いなと思いつつ走りつづけていたら、バシッとぶつかってきた虫が大きな声で『イテッ』と言った。」

もう連絡がとれない人なので書いていいかの許可もとれませんが、いい話で勿体ないので書いてしまいました。私はオートバイには乗れないのですが、自転車で蚊柱に突っ込んだ時のことを思い出すと、羽虫がパシパシする感じは想像できます。でも虫(たぶん黄金虫だと思う、とのことでした。)の「イテッ」という声がどんなふうだったのか、肝心のところが想像しきれないので、「これが自分の思い出だったらいいのに」と、どうしても思ってしまいます。

「2001年版逆さの思い出」というマンガで、「他人の体験談を羨んで、何回も思い出していたら次第に自分の体験談のような気がしてきた」ということを描きました。このマンガに出てくる「他人の思い出」は、友達の子供の頃の体験談でした。この友達は女性で、そこのところも自分に置き換えやすいし、子供の頃、というのも自分が子供の頃に体験したいろいろな変なことに混ぜてしまうとそう違和感もないので、自分のものにしやすかったのだと思います。「虫がイテッと言った話」の方は、どうも上手くいきません。もし今後、私が本当に虫の声を聞くような機会があった場合、「『イテッ』という声を何度も思い浮かべていたから、聞こえたような気がしただけではないか」と疑ってしまう気がするので、このままで行くともう一生、私には虫の声は聞こえなそうです。

今ではもう一括りに「だいぶ前のこと」という枠に入っていますが、子供の頃に体験したいろいろな変なことも、それぞれに前後関係があったはずです。名前はもう忘れましたが、その男性が誰の元彼氏だったかや、その喫茶店が目白にあったことは覚えています。いつどこで誰から聞いた話かも思い出せないくらい時間がたったら、自分の思い出にできるのかもしれません。
b0221185_16364455.jpg

[PR]
by mag-akino | 2012-03-16 16:37

謎の記憶

雪の日に、両親のどちらかが押す乳母車に乗せられて、家族で家の前の通りを右折する、という古い記憶があります。先日「具体的に場所と時期がわかっている一番古い記憶」について書きましたが、これはそれよりも古い記憶です。ただ、不思議なのはこの「家族で雪の中を歩いている」という状況を後ろから見ている、という光景で覚えていることです。

後ろからみんなを見ているのに、「あの乳母車に乗っているのは私だ」と思っているということは、どうも現実ではなさそうです。記憶や思い出は時間がたつごとにどんどん曖昧で不正確になっていきますが、この矛盾した記憶が一番古い記憶だというのはたぶん本当です。と、いうのも「『これが覚えていることの中で一番古い』と、幼児の頃に思ったこと」を覚えているからです。幼児の頃は、この出来事からそんなに時間もたっていないせいか、「これが一番古い」ということが感覚的にはっきりわかっていました。今はもう「幼児の時にそう思っていたからそうなんだろう」という方法でしか確認できません。

両親が、私と兄のものとを分けて何冊もアルバムにまとめていたため、赤ん坊から中学生くらいまでの写真がたくさん残っています。子供の頃、そのアルバムを見るのが好きでした。授業で教わったことをその日のうちに復習すると忘れにくいように、子供のうちに子供の頃の自分の記憶を復習していたので、その頃の記憶が鮮明です。中学生頃から写真の枚数がグッと減って、自分で写真を見返すこともあまりなくなったせいか、そのあたりからの記憶の方が密度が薄いように感じます。

そう言う訳で、「この記憶が一番古い」という自信はあります。しかし、現実にはあり得ない状況なので、これは「一番古い夢の記憶」かもしれないと思うようになりました。もう一つ思いあたるのは、「これは私の記憶ではなく、兄の記憶だ」という可能性です。子供の頃、自分のアルバムと一緒に、3つ年上兄のアルバムもよく見ていました。赤ん坊の頃の兄や、自分と同じ歳の兄の写真も何度も見たので、どこかで記憶が混ざっていたとしてもそう不思議ではありません。「雪の日に、乳母車に乗る私と傍らの両親を、後ろから見ている」という3歳の兄の気持ちに、子供の頃に共感していたのかもしれません。
b0221185_11433849.jpg

[PR]
by mag-akino | 2012-03-10 11:45

4月のあの匂い

4月の草木の新芽が出る頃に、道を歩いていると臭ってくるあの匂いが、私は好きです。高校の時の同級生があの匂いが大嫌いで、春先は通学時に吐きそうになると言って毎朝グッタリしていました。たしかにちょっと臭いような独特の匂いで、嫌いな人がいるのもわかります。

暖かくなってくると気が緩んで、特になんということもないのにウキウキすることがあります。そのせいか、4月頃になると道端で1人笑いする人や、1人笑いを通り越して針が振り切れる人も出て来ますが、あの匂いが何か作用しているのではないかと思います。(と、家族に言ったら「今更何を」という感じに受け流されたのですが、これは一般論なんでしょうか?)

住み始めてわかったことですが、ニューヨークには一人笑いをする人がほとんどいません。私はすれ違いざまに人の顔をジロジロみる悪い癖があるのでよくわかるのですが、日本には「歩きながら1人で笑っている人」が本当にたくさんいます。帰国時にそういう人をみつけると「おお、日本だ」と感じるほどです。私もたまに道端で思い出し笑いしそうになっては、「いけない、ここは日本ではなかった」と我慢しています。日本人だったら一人笑いくらい特に気もとめませんが、ニューヨーカーはたぶん見逃してくれないと思います。

ニューヨークでもあの匂いを嗅いだことはあります。あの匂いには「ものすごい生命エネルギー」が含まれていて、人間が通常もっているエネルギーにそれが加算されて、なんだかウキウキしたり、許容量を超えて笑いだしたりするのだと思います。心の脇が甘くなる4月は気をつけないと、あの匂いにつけ込まれてしまいます。どうやら日本人はあの匂いに弱い、というか同調しやすい人種のようなので、特に気をつけて、4月に笑い出しそうになっても噛み殺した方がいいと思います。
b0221185_9144997.jpg

[PR]
by mag-akino | 2012-03-02 09:16


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


by mag-akino

プロフィールを見る
画像一覧

近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

以前の記事

2017年 03月
2016年 11月
2015年 07月
2014年 12月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 03月
2014年 02月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 09月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月

フォロー中のブログ

検索

カテゴリ

全体
未分類

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧