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不思議な彼女

ある冬の日に、彼女が駅のホームで電車を待っていた時のこと。突然、中年の女性が近寄ってきて、彼女にこう尋ねたそうだ。

「あなた、向こうのホームで電車を待ってる人のうち、何人が今年中に死ぬかわかる?」

彼女がうろたえて黙っていると、中年の女性は「そう。わからないの。あなたはまだそんなものなのね」とつぶやくと、「三人よ」と言ったそうだ。そして、あっけにとられている彼女に「じゃ!」と言い放つと、やってきた電車に飛び乗ってあっという間に行ってしまったそうである。

この「彼女」というのは、去年の夏に書いた、「本当かはわからないけどウソではない話」をする、高校時代の知り合いである。読んでいただくとわかるのだが、この「彼女」自身も不思議な人で、奇妙な体験をたくさんしているようだった。

この話を、たまに友達に話してみると、「じゃ!」のところで100%の人が笑う。高校時代に彼女からはじめてこの話を聞いた時、私も「じゃ!」のところで笑った。

私が通っていた高校はプロテスタント系の学校で、毎朝礼拝があった。賛美歌のあと、日替わりで誰かが説教をするのだが、ごくたまに、彼女が説教というよりは例の「本当かはわからないけどウソではない話」をすることがあった。全校生徒が集中して話を聞いている緊張感で講堂がはりつめていた。不思議な話をする人、というのは結構いるのだが、それをおもしろく語れる人というのはあまりいないのだな、と「じゃ!」で笑いをとるたびに感じる。私が真似して語っても100%おもしろいのである。本人から直接聞いたらどんなにおかしいか想像してほしい。

ところでこの彼女、こういう不思議な話を語り、皆がひとしきり盛り上がった後に、「私は子供を産めない体質だ」ということをポツリと付け加えることがよくあった。不妊治療もがんばってみたがどうしてもダメで、とうとうあきらめたそうだ。どうも彼女は「自分が不思議な体験をすること」と「子供が産めないこと」を関連づけて考えていたようである。「子供が産めない」と言われても、高校時代の私たちはポカンとしているだけだった。

たまに、彼女はどうしているのかなと思いだすのだが、もう縁は切れてしまって全然わからない。勘の良い彼女のことだから、何か具体的に「不妊」と「不思議」の関連性を知っていたのかもしれない。それに、「あなたはまだそんなものなのね」と中年女性が言ったのはもうずっと前のことである。今ごろはもしかしたら、何人死ぬのかを小咄風に語れるようになっているのかもしれない。
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by mag-akino | 2012-09-26 12:52

ゴミ屋敷で習字する

先日、「子供は集中力がある」と書いたが、私がそう考える根拠となっている思い出その2。

私が習字教室に通いはじめたのは、小学校にあがる前、たしか幼稚園の年長組の時であった。母に「お習字やってみる?」と聞かれ、なんとなく「うん」と答えた記憶はあるが、実際には全く意味がわかっていなかった。ある日、幼稚園が終わると自転車の後ろに乗せられ、近所のマンションの一室に連れて行かれ、今日はためしにお習字をしてみましょう、ということになった。

教室は幼稚園の近くにある、ごく普通のマンションの一室で、そこに暮らすおばあさんが先生だった。30枚ほどの半紙に「今月の言葉」みたいなものを先生の真似をして書いたり、添削してもらったりした。開始の時間は決まっておらず、来た人から書き始め、先生や他の子供と雑談しながらのんびりやる、という楽な形式で、帰りがけにお菓子をくれる、というオマケもあった。初日の終わり、迎えに来た母に「どうする?通ってみる?」と聞かれたので、「通う」と答えたのをはっきり覚えている。筆に墨をつけて字を書く、というのがはじめてでおもしろかったのもあるが、当時流行っていたビックリマンチョコがもらえてうれしかったのが主な理由であったと思う。

さて、それから小学4年まで、週に一度おばあさんの家に通った。問題は、このおばあさんの家がゴミ屋敷であったということだ。1985年にはまだゴミ屋敷という言葉はなかったと思うが、思いだせば思い出すほどたしかにあそこはゴミ屋敷であった。玄関から和室までのルートはギリギリ確保されていたが、教室として使用する和室以外のスペースは物で埋め尽くされ、足を踏み入れることができなくなっていた。恐らく先生本人も立ち入れなくなっていたのだろう。リビングにはソファがあったのよ…とコッソリと教えてくれたり(物に埋まっていて見えない)、その向こうにセントポーリアの入ったビニールハウスがあったのだけど、もう行けないわ…などと寂しそうにつぶやいたりしていた。たしかにビニールハウスらしきものが遥か遠くゴミの向こうに見えたが、その中にはセントポーリアの鉢がそのまま放置されているようだった。

和室は和室でもうかなり限界で抜き差しならなかった。ゴミの隙間で習字をするのも大変な集中力だが、先生は習字をする私の傍らでテレビを観ていて、見所がくると「聡乃ちゃんもちょっと観なさい」と邪魔をしてきたりもしたので、なかなか30枚書き終わらなかった。

「ゴミ屋敷で5年間習字をしていた」ということが、よく考えると異常事態だと気づいたのは大学生になってからだった。「子供をゴミ屋敷に通わせる」というのもよく考えると異常事態だと思ったので、母にたしかめたら、あの初日の「どうする?通ってみる?」と聞いた時、内心で「『通わない』って言って!」と思っていたようである。その日はじめて教室のブザーを押し、先生がドアを開けた瞬間、ゴミの山が見えてハッとしたそうだ。私が先生の前で「通う」と宣言してしまった手前、断れなくなったらしい。

教室に通った約5年間、1度もトイレを借りたことがないため、トイレがどうなっていたのか、さらに風呂場がどこにあったのかは知らない。今、もう一度あそこに行くことができたら、物を踏み越えてビニールハウスのセントポーリアを確認したり、「絶対に来ちゃダメ」と言われた台所に先生の目を盗んで侵入してみたい。おとなしく和室で習字をし続けられたのは、集中力があったからだと思う。というか、ゴミ屋敷であること自体もたいして気にしていなかったので、これも前回書いた通り、やっぱり「子供は気持ち悪さに鈍感」でもあると思う。多少バカだったのかもしれない。

そんないい加減な教室だったから、習字は全然うまくならなかった。先生は私しか生徒がいない時を見計らって、「私が死んだら聡乃ちゃんに、死に装束にお経を書かせてあげるからね」と言ったりした。私はこの口約束を誇らしく感じていたが、小学校4年生で教室をやめて以来一度もお会いしていない。先生は今もあのゴミ屋敷で習字を、とたまに考え、いやまさか、と思ったりしている。
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by mag-akino | 2012-09-19 10:58

子供のあれこれ

小学校2年生の時、窓際の席に座っていた。窓際の棚には水槽が置いてあり、誰かがとってきたトノサマガエルのオタマジャクシが濁った水の中で泳いでいた。オタマジャクシといっても、あの、真っ黒で音符のようにみえるかわいいやつではなく、皮膚と水の境が曖昧な灰色の水餃子みたいなヌルヌルしたもので、顔の表情まで読み取れる大きさだった。全長5センチくらいあったと思う。授業を受けながら、なんとはなしに日々観察していると、オタマジャクシというのは、まず足が生え、次に手が生え、同時に尻尾が短くなっていって、いつの間にかカエルになるようだった。♪のオタマジャクシの場合、「足が生え始めた頃」がとてもかわいいのだが、水餃子に足が生えていく様子はもの凄く気味の悪いものだった。しかも、この「足が生える時期」がオタマジャクシにとって最もデリケートであるようで、足だけ生やした状態で何匹も立て続けに死んで、水面に浮かんだ。生き物係が横着していたのか、気づかなかったのか知らないが、水面の死体は日に日に増えていき、真横の私は「ああ、今日もまた一匹死んだ」と、水との境がますます曖昧になった水餃子を眺めて憂鬱だった。なんといっても一番嫌だったのは、生きているオタマジャクシが死んだオタマジャクシを無表情でついばんでいたことである。

悪臭と共喰いの地獄と隣接しつつ、よく授業が受けられたと思う。「子供は気持ち悪さに鈍感」、「子供は集中力がある」、と思う根拠になっている出来事の一つである。

ところで、「巨大なカエル」というのはどのくらい巨大なんだろうか。私は小学生の頃、食用蛙というのは「洗濯機くらいの大きさ」のカエルだと思っていた。大人になってからテレビで観たら確かに大きかったが、洗濯機と比べると遥かに小さくてガッカリした。

「ある朝、玄関のドアを開けたら洗濯機大のカエルがいた」というフレーズで胸がドキドキしたのをはっきり覚えているのだが、いつどこで誰から聞いた話かは思い出せない。洗濯機、という喩えに真実味があるように思う。
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by mag-akino | 2012-09-14 04:54

テストの思い出

① 小学校の漢字のテストで、曜日の「曜」のヨヨの下の部分がどうしても思い出せなかったので、仕方なく「田」を書いておいた。なぜかこの間違いだけが忘れられない。

② 小学六年の社会のテストが始まった途端に、強烈な睡魔に襲われ、間違えて裏面から解き始めてしまった。別紙の回答欄が問題と合わないな、とは思ったが朦朧としていたので間違いに気づかなかった。ひどい点数だったが、三択問題が偶然当たったりしていて0点ではなかった。

③ 多摩美の入学試験の英語の問題に、長文に空欄が空いていて、イロハニホヘト〜の選択肢から正しいのを選ぶ、というのがあった。時間が余ったので見直していたら、答えが「イヌトニワヲホル」になっていることに気づいた。

④ 高校三年生の漢字テストの開始寸前に、斜め前の席のSさんが「シャーペンを忘れたから誰か貸して」と言い出した。本当は二本持っていたのだが、「シャーペンは一本しか持ってないから貸せないけど、筆ペンなら持ってるよ」とふざけて答えたら、Sさんは本当に筆ペンでテストを受けてしまった。小さい回答欄に筆ペンで漢字を書くのは超大変だったらしいが、後日先生に叱られていた。
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by mag-akino | 2012-09-10 23:53

飛んでいったエビの話

高校生の時、大正沼エビを飼っていた。ペットショップで見かけて気に入って、金魚鉢で飼い始めたのだが、3㎝くらいの透明なエビで、よく見ないとどこにいるかわからなかった。

ある日、そのエビがどこかに消えてしまった。カルキ抜きのために日に晒しておいた水と入れ替えようと、金魚鉢を持ってベランダに出たらもうどこかに消えてしまっていた。見えないだけでどこかにいるのだろうと、最初はのんきに探していたのだが、本当にいなかった。さっき居間で鉢を覗いた時には確かにいた、そういえば以前、水を替えようとした時にピョンと跳ねて逃げようとしたことがあった、と思い出し、周りを見渡し、居間からベランダまでのルートを念入りに探したがやはりいなかった。ピョンと跳ねて7階のベランダから下に落ちてしまったのかも、と思いついてゾッとした。

一応、下を見てみたが、もちろんエビは見えなかった。どうしたらいいのだろう、と途方に暮れたがどうしようもなかった。7階から落ちたらエビは死ぬのだろうかと考え、エビは軽いから意外と大丈夫かもしれないと思った。中学校の理科の授業で、地中に住むエビがいると習ったなぁ、とか、いや、それとも風に飛ばされてしまったかもしれない……などと考えているうちに、なんだか腹の底からおかしくなってしまい、いけないと思い笑いをかみ殺して、台所にいた母に「エビが飛んでいった」と報告した。

さて、それから数日後。ゴミを捨てようと台所にいったら、ゴミ箱の脇に何か落ちていた。なんだろうと拾ってみたら、カラカラに乾燥してカップヌードルのエビのようになった私のエビだった。エビは焼いたりゆでたりしなくても、ひからびると赤くなると初めて知った。風に吹き飛ばされる姿を想像して私がニヤニヤしていた時、エビは実際には居間から台所に向かってピョンピョン跳ねていたのである。

カップヌードルのエビを見る度に、風に飛ばされるエビを思い浮かべ、腹の底から笑いがこみ上げてくる。ひどい話である。

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by mag-akino | 2012-09-10 11:40


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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