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今日はなんだか変だ

出張中の友人に、郵便受けの管理と植物のお世話を頼まれた。友人のアパートのある建物は、多くの家族が住む大きな建物で、入り口に鍵つきのドア、入ったところに郵便受け、階段をあがると友人の部屋のドア、という造りになっていた。「入り口のドアはいつも鍵が開いている」とのことで、預かったのは郵便受けの小さな鍵と、部屋のドアの二つだった。

たしか二回目の水やりに行った時のことである。いつもは開いているはずの入り口のドアが閉まっていた。もう外が暗い時刻だったので「夜は鍵を閉めることもあるのかもしれない」と思ったが、「せっかく来たのだから水をやって帰りたい」とも思った。そこで適当な部屋のブザーを鳴らして、「友人の家に来たのだがドアが開かない」と言ってみたところ、ドアの鍵を開けてもらえた。

不用心、と思いつつ建物の中に入り、郵便受けを開けようと鍵を差し込んだが、開かなかった。何度もガチャガチャやっていたら、ちょうど帰宅した一階の部屋の住人らしきインド人(と思われる)男性が手伝ってくれた。二人でしばらくガチャガチャやってみたがどうしても開かない。もうあきらめよう、と鍵穴から鍵を引き抜いた男性が、その郵便受けをまじまじとみて、「これは僕の部屋の郵便受けじゃないか」と言ってニヤリと笑った。

この一言で完全に訳がわからなくなった。前回来た時はたしかにこの右下のポストを開けたのである。ということは前回取り出して友人宅に置いてきた郵便物はこのインド人男性のものだったのだろうか。だったら謝らなくてはならない。それにしてもこの人もこの人でこんなに長い間ガチャガチャやって、自分の郵便受けと気づかなかったのだろうか。怪しい。今日はなんだか変である。混乱しつつ友人の部屋番号のポストに鍵を入れてみたがそちらも開かない。階段を上り、部屋のドアに鍵を入れたらそれも開かない。

ここにきてようやく「建物自体が違うのでは」と気がついた。階段を降り、外に出たところ、お隣りにほとんど同じ構造の建物があり、それが友人の家だった。

帰って来た友人にこのことを話したら「二回目に来る人は大抵間違える」とのことであった。よくある間違いだったようだが、それにしても鍵が三つ開かなかった程度では、根本的な間違いがあることには気づかずに、「今日はなんだか変だ」程度の出来事なのである。この件に関しては、インド人の乱入によって余計に訳がわからなくなり、さらに最後の「ニヤリ」で頭に血が上ったということもあるが、それをふまえてもいい加減である。

「今日は低気圧だから」
「昨日は夜寝るのが遅かったから」
「珍しいものを食べたから」

これらが普段、私が「今日はなんだか変だ」と思った際の、自分への説明である。天気や血圧や食品のせいにしていつも折り合いをつけてきたが、全て根本的な間違いがあったのかもしれない。だいたい、鍵が一つ開かなかった時点では「今日はなんだか変だ」とすら思わなかったのである。今朝は目玉焼きを作ろうとしたら、双子の卵で、朝から有頂天になった。かなり大きな間違いがあっても「今日はなんだか変だ、それは卵が双子だったから」で済ましてしまいそうだ。
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by mag-akino | 2012-11-26 21:12

チェルシーヨーグルトスカッチと幼虫の腹

子供の頃に、祖母がよく「チェルシー」という飴をくれた。チェルシーは今でも販売されている、黒地に花柄のデザインの薄い紙箱に詰められた、あのチェルシーである。バタースカッチは味が濃くて苦手だったのだが、ヨーグルトスカッチは大好きだったので、緑の柄のパッケージが祖母のハンドバッグから出て来るとうれしかった。私が、「透明感がある緑がかった白」が好きなのは、このチェルシーヨーグルトスカッチに由来していると思う。

実際のチェルシーヨーグルトスカッチは、透明感はあるが緑がかってはいない。しばらく食べていないのではっきり思い出せないが、白い、というほど白くもない飴であった気もする。子供の分類でバタースカッチは茶色、ヨーグルトスカッチは白、ということだったのだと思う。そしてそのまま、パッケージの緑と、透明感のある飴のイメージが重なって、緑がかった白いものをみると、チェルシーヨーグルト味を思い浮かべるようになった。

緑がかった白いもの、といってもう一つ思い出すのが、カブトムシの幼虫の腹である。あれもよくよく考えると緑がかってはいないのだが、なぜか緑色がかった印象を持っている。私の理想の「緑がかった透明感のある白」そのものなのが、「羽化の途中の蝉」であるから、カブトムシの幼虫に対して緑色がかった印象を持っているのは、蝉からの連想かもしれない。ずっと昔、机の下にカブトムシの幼虫がいる絵を描いた時は、迷わず緑がかった白で塗った。

そう言う訳で、カブトムシの幼虫を見ても、羽化途中の蝉を見ても、反射的にチェルシーヨーグルト味を思い浮かべているので、実は「おいしそう」という印象を持っている。実際に口にいれてしまったことはないし、これからも舐めたりはしないが、ずっと「おいしそう」と感じ続けると思う。また、サーモンピンク、という色に対しても「おいしそう」と感じているのだが、こちらは理由がわからない。

絵を描く時もなんとなく「口にいれた時にいい感じかどうか」を基準に描いている気がする。口にいれた時にいい感じ、というのは、瑞々しいとか、少しやわらかいとか、うっすら甘い、という感じなのだが、視覚をどうやってそれらの感覚に置き換えているのかはわからない。これも細かく突き止めていくと、チェルシーヨーグルトスカッチのような子供の頃の色と味(食感)に関する記憶が何かあるのだと思う。




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by mag-akino | 2012-11-03 09:42


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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