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ハエの思い出

①祖父とハエ
たしか小学校の低学年の頃である。私は居間の机で折り鶴を折っており、祖父がそれをジッとみていた。折り終わり、翼を左右に広げて胴体をふくらませ、「ハイ」と祖父に渡した。祖父は神妙に鶴をひっくり返し、おへその部分にある穴を指差し、「ここからハエを入れるんだ」と言った。折り鶴の胴体の部分にハエを入れると、鶴がゴソゴソ動いて楽しいそうである。


②教授とハエ
多摩美術大学二年生の時である。その日は二クラス合同の講評会であった。生徒は作品を教室の前に並べて好きな場所に座り、二人の教授がそれぞれ目に留った作品から講評していった。私は左端近くの最前列の椅子に座ってぼんやり聴きつつ、目の前を飛んでいるハエをなんとなく目で追っていた。ハエはしばらく作品と生徒の間をブンブン飛び回っていたのだが、私の目の前で突然直角に落下し、そのまま死んでしまった。「目に見えない毒空気の塊に突入して即死」といった感じだった。ハッとして顔をあげると、同じくハッとした顔の教授と目があった。




その教授は私のクラスの担任の教授で、私と同じく、もう一人の教授の講評をぼんやり聴きつつ、ハエを目で追っていたと思われる。教授のあの時の顔と、祖父の「ここからハエを入れるんだ」と言って笑った顔が忘れられない。この二件の出来事の後、教授と祖父に対する親しみがより深くなった。

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by mag-akino | 2013-01-28 15:18

ウソみたいな本当の話 その3 、名前を思い出した話

いつもは一人で描くのだが、マンガのベタ塗りを手伝ってもらっていた時期がある。個展を控えての地獄のようなアニメーション制作の日々が本格的に地獄になった2011年の頭から半年程である。私はニューヨークに来てから三年間、隔週八ページの四コママンガの連載をしており、そのベタ塗りまで手がまわらなくなったのだ。線を仕上げたところでアシスタントさんに来てもらい、ココとココを黒で塗りつぶして、と指定をして、私はその横で動画の色付けなどをしていた。

そうこうしているうちにあっという間に時間がたって、四コママンガは完結し、アニメーションもギリギリに仕上がり、無事個展を迎えた。そして、ニューヨークに戻りホッと一息ついて、改めてアシスタントさんにお礼のメールを送ろうとしたら、彼女の名前がどうしても思い出せなくなっていた。顔ははっきり覚えているのだが、いくら考えてもどうしても名前が思い出せない。もう既に何回か感謝の気持ちを伝えた後の「改めて」のメールだし、まあ今日でなくてもいいか、と思っているうちにまたあっという間に三ヶ月程たってしまった。

三ヶ月の間、何回も「彼女何て名前だっけ?」と考えて、全然思い出せなかったのは事実なのだが、実のところ私は、キッチンの脇の引き出しをあければ彼女の名前がわかることもわかっていた。アシスタント代を払った際の領収書がそこに入っていたのである。つまり「引き出しを開けて領収書を探す」という、やろうと思えば一分でできることが、なんだか無性に面倒臭くて三ヶ月も放置してしまったのである。

そんなある日、夢をみた。夢の中で私は、いつものように絵を描きながら「彼女何て名前だっけ?」と考えていた。そして、椅子から立ち上がり、キッチンの脇の引き出しをあけ、領収書を出したのである。そこには忘れていた彼女の名前が書かれていた。翌朝起きてすぐ、彼女に感謝のメールを送り、それ以来彼女の名前は忘れていない。

忘れていることも本当は頭のどこかに残っている、と実感した出来事である。

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by mag-akino | 2013-01-19 15:06

ウソみたいな本当の話 その2、ストーカー事件内実

前回書いた、ウソみたいな本当のストーカーの話の中に、ややこしくなるので書かなかったもう一つのウソみたいな本当の出来事があり、今回はその話である。

警察に電話をかけても力になってもらえず、窓から外をみたら自宅マンションの下にストーカーが立っており、このまま行ったら玄関の前に立たれるのも時間の問題だ、と切羽つまった時、彼はパタリと姿をみせなくなった。

なぜ彼は突然ストーカー行為をやめたのだろうか?ものすごい罪悪感に襲われて反省したにしても、兄への興味が一気に覚めたにしても、何かが彼の心を大きく動かしたと思われる。その何かとは何なのだろうか。私は直接の被害者でないせいもあり長年これが気になっている。

ここで思い出すのが祖父のことである。警察に相談にのってもらえなかった母は困って、祖父に電話で事情を説明したのだった。すると心配性の祖父は「わかった、任せておきなさい」というようなことを言い、電話を切り、そしてストーカーはパタリと来なくなった。

祖父がとった行動は、神仏に祈る、というような祈祷のたぐいであったらしいが、私はよく知らない。祖父はもう亡くなってしまったので、具体的に何をどう祈ったのかも確かめることはできない。事件が収束したことで、家族全員「良かった良かった」というのんきな気分になってしまって、「犯人はなぜストーカー行為をやめたのか」を誰も気にかけなかった。私が「犯人の心変わりの理由」に野次馬的興味がわいてきたのは、写真館で彼を発見した後のことである。ストーカーの彼とは、その後、兄と一緒に近所を歩いている時にすれ違ったこともあるが、まるで兄を知らないかのような無反応で、心変わりというよりも兄のことを「忘却」したかのような態度であった。

ストーカー本人に心変わりの理由をきいてみる、というのが一番手っ取り早いが(実家の近所に住んでいるようだし)、ややこしくなると困るのでこれはできない。兄への執着が一晩にして覚めるほどの心変わりである。何かが彼に起こったのは間違いないだろう。

思い返すと祖父に関して「不思議だな」と思った出来事がいくつかあるが、その時は「そういうものだろう」とそのままにしてきた。「あれは一体どうしてだろう?」と興味がわいて「知りたい」と思ったのは、祖父が亡くなってからである。不思議なことについて詳細を確かめる、というのは面倒なことであり、面倒なのは、想像以上に不思議だった時に対処する自信がないからである。「知りたい」という気持ちも、「もう手遅れ」なことがわかった上での気持ちであると思う。



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by mag-akino | 2013-01-06 07:01

ウソみたいな本当の話 その1、ストーカー

私が中学生の時、3つ歳上の兄がストーカー被害にあった。兄は隣り駅で乗り換えをして都内の高校に通学していたのだが、最初に犯人をみたのは隣りの駅だったそうだ。それがいつの間にか、最寄り駅でみかけるようになり、「おや?」と思っているうちに、ちょっとずつ家に近づいてきたという。毎朝、曲がり角に立ち、どちらから兄が来るのか見張っていたのである。

兄が両親に打ち明けたのは犯人がだいぶ家に接近してからのことだった。両親は警察に電話をかけて相談してみたが、思ったとおり「はっきりした被害がないと警察は動けない」というようなことを言われて困ってしまった。私が「兄、ストーカー事件」を知ったのは、この電話のちょっと前である。ある朝、母が「ばれないように」と言うので、そっとカーテンの隙間から覗いたら、マンションの下にストーカーが立っていた。「激怒」風の険しい顔つきをした白人男性であった。私も何日か前に駅に向かう途中ですれ違っており、外国人だったせいもあり、見覚えがあった。

警察は頼りにならないので、家を出る時間をずらしたり、父が駅まで送ったり、そうこうしているうちに、急に彼は姿をみせなくなった。一体何が目的だったのか、何人なのか、当時の私には「かなりおっさん」にみえたが、本当は何歳だったのか、何もかもわからないままにうやむやに事件は解決した。

私が彼と再会したのは、それから3年後である。大学受験用の証明写真を撮影するために、最寄り駅近くの写真館に行った時のこと。撮影をすませ、待ち時間に店内を何気なく見回していて、ハッとした。証明写真のサイズ見本のモデルとして、彼がうつっていたのである。

前回は「本当のようなウソの話」を書いたが、今回は「ウソのような本当の話」である。意表をつかれる形でのストーカーとの再会は、恐怖でおののく、というより、腹の底から笑いがこみあげてきたので、走って家に帰り、母に報告して二人で爆笑した。さらにウソのようで本当なのが、それから14年ほどたった現在も、彼はまだ実家の近所に住んでいて、たまにみかける、ということである。見た目は当時と全く変わらない。今だったら「一体何歳なのか」くらいはきける気がする。
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今年もよろしくお願い致します。 近藤聡乃
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by mag-akino | 2013-01-03 13:08


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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