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普通でないことへの憧れ

普通の人のほとんどが持っている気持ちに、「普通でないことへの憧れ」というのがあると思う。そして、ほとんどの人は普通だと思うので、この気持ちはほとんどの人が持っているごく普通の気持ちだと思う。

私に、この気持ちを強く意識させるのが、今年も先日開催されたアウトサイダーアートフェアである。アウトサイダーアート(Outsider Art)というのは、フランス語の「Art Brut(生の芸術)」の訳語として作られた言葉で、解釈の幅が広い。美術教育を受けていない独学の作家、知的障害の作家、精神障害の作家、精神病の作家の作品全てを含むのだから、解釈の幅が広い、というより広すぎる曖昧な言葉である。「美術教育を受けている作家」が今のアーティストのほとんど(普通)であるので、それをインサイドとして、それ以外全てという意味だろう。たぶん、言葉として未完成で、そのうち使われなくなる言葉だと思う。

言葉の良し悪しはさておき、アウトサイダーアートフェアというのは、その広範囲の作家の作品を展示販売するイベントのことで、ニューヨークでは毎年二月に開催されている。私はこのフェアが楽しみで、住み始めてから毎年通っている。私にはどうやっても作ることができない作品が、ゴチャゴチャした会場の中でポツリポツリと光っていておもしろいのだ。

私は美術大学を卒業しているので(そこで何かを学んだかと言うと疑わしいが)、独学というのは無理があるし、知的障害、精神障害もないので、「普通」のアーティストである。今後私がアウトサイダーアーティストという範疇に入るには、精神病を煩うしかない。実際に晩年に精神病を煩った作家にアウトサイダーアート界のスターもいるので、「普通でないことへの憧れ」がフェアに行くと再燃してしまう。そして、つい「精神病を煩ったら天才になれるかもしれない」という気持ちが湧いてしまう。

ただ毎年フェアを観ているとわかるのが、アウトサイダーアーティストでも「天才」は稀であるということである。毎年どこかしらのギャラリーから出品されるヘンリー・ダーガー、モートン・バートレット、アロイーズ・コルバスなどの作品は何度観ても新鮮に輝いているが、彼らに続く作家はなかなか現れない。このフェアで一番多くみかけるのが、細かい手作業の膨大な反復によってできた作品である。私も細かい手作業を繰り返すのが好きなので、それを繰り返して内に没入していく快感はよく知っている。だが、いくら没入して内に籠った気迫があっても、あの会場ではそれが「普通」なので埋もれてしまう。その中で上記の作家が圧倒的なのは、内に籠りつつも、どこか外側に抜けていく「風通しの良さ」を感じるからだと思う。

2007年に原美術館で開催された「ヘンリー ダーガー 少女たちの戦いの物語—夢の楽園」も観に行った。作品が好みなのは、画集などで観てわかっていたのだが、実際に観て驚いたのは作品に清潔感があったことである。「ペニスのついた少女」とか、「殺される少女」などの予備知識のせいもあり、きっと作者の欲望が前面に出た手垢まみれの穢い感じの作品なのだろうと思っていたので、意外だった。明るい館内で、ガラスに挟まれて紙の裏と表の両面がみえるように展示された作品はとても清らかだった。

この清潔感だが、私は、作者がほとんどの少女を手で描かずに広告や写真からトレースしたためだと思う。他所からのイメージをトレースすることで、作者の頭の中の少女達は一瞬作者の手を離れ、そこに風の通り道ができ、清々しい印象をもたらしているのだ。さらに、人物だけではなく背景が入念に描かれているのも、作品が外に向かって開かれているように感じる理由の一つだと思う。(後で知ったのだが、ヘンリー・ダーガーは気象や空にも興味があったそうだ。)その他にも、水彩絵の具で塗られた色や、文字と絵の配置 が美しく、ずっと眺めていたい素晴らしい作品であった。

この展示やフェアでヘンリー・ダーガーの作品を観て思うのは、彼にはそもそも才能があったということである。独学で、特殊な環境で生活し、知的障害もあったようだが、観察力や色感、レイアウトのセンスも生まれつきのものである。「アウトサイダー」であることで、作品の出来に伸びがあったとは思うが、0が100になったのではないだろう。もし彼が「インサイド」にいたのなら、今ほどではないにしても、それなりに良い作品を作るアーティストだったのではないだろうか。

すっかり長くなってしまったが、何が言いたいかと言うと、「今後私が精神病を煩っても天才にはならないだろう」ということである。安易な気持ちは持たずに、「普通」でないことに普通に憧れつつ、真面目にがんばろうと思います…


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by mag-akino | 2013-02-07 12:58


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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