行方不明のチーバくん

千葉県出身のせいか、私は千葉県のマスコットキャラクター「チーバくん」が好きだ。チーバくんとは、横を向くと千葉県の形になる赤い犬である。実家近くのピーナッツ(千葉県八街の名産)屋さんで、チーバくんキーホルダーが売られていたので、つい買ってしまったのが、二年前。それ以来、旅行用のトランクにつけ、いろいろなところで見せびらかしてきた。

先日そのチーバくんがどこかへ行ってしまった。最後にみたのはニューヨークのジョン・F・ケネディ空港である。チーバくんごとトランクを預け、成田のバゲージクレームのベルトコンベアでトランクが流れてきた時にはもう、チーバくんはいなくなっていた。13時間の長距離移動で疲れていたこともあり、私は問い合わせもせずに空港を出てしまった。

それが、ここ最近になって気になってきている。と、いうのも事の経緯を二人に話したら、その二人ともが「誰が盗ったんだろう?」と言ったからである。キーホルダーの金具が壊れてはずれたとばかり思っていたのだか、誰かにさらわれた可能性もあるのか、とハッとしたのだ。

しかし、私が気になっているのは「誰が盗ったか」ではなく「チーバくんは今どこにいるのか」である。もしかしたらジョン・F・ケネディ空港の片隅に転がっているかもしれないし、成田のベルトコンベアをグルグル回っているかもしれないし、飛行機に乗ったまま空を飛んでいるかもしれない。さらに、本当に誰かの物になってしまって、フランスあたりにいる可能性だってあるのだ。いろいろなくしものをしたことはあるが、国際的になくしたのははじめてである。

そして、そこから話はそれて、「これまでなくしたもの」について思いをはせている。小学生の時に、大切にしていたシャープペンをなくした。中学生の時には、電車で居眠りから覚めたら、かぶっていたベレー帽がなくなっていた。ここ数年では、柘植の櫛をどこかにやってしまった。シャーペンは、翌日「前日使ったところ」を全て探しまわり、塾の教室の机の中についに発見した。ベレー帽はみつからなかった。櫛はなくしたと思ったら、鞄からふいに出て来て、そのうちまたどこかへいってしまったので、実際は「なくしていない」のかもしれないが、わからない。

今こそ、「絶対に効くなくしもののおまじない」をするべきなのだが、どうも気がのらない。ニューヨークのアパートのドアを開けたら、チーバくんが先に戻っていそうで恐ろしいのである。それに、もしかしたら櫛みたいに、本当はなくしていないかもしれない。そう考えると、「みつけた」と思ったシャーペンも、本当は、そっくりだけど別のシャーペンだったかもしれないのだ。

もし、万が一、「アパートのドアを開けたらチーバくんが先に戻っている」という恐怖と遭遇した時のために、「チーバくんはなくなったのではない、行方不明なのだ」と思うことにしている。


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# by mag-akino | 2013-09-16 14:21

個性的な怪談

ニューヨークも暑く、来月の個展にむけて追い込み中でイライラとしていたせいか、いつの間にか「今までにきいた怪談」をいろいろと頭に思い浮かべていた。そこで一つ、久しぶりに思い出した怪談があるのだが、意味がさっぱりわからない。それはこんな話である。

ある男が引っ越しをした。新居でのはじめての朝、ベランダから鳩の鳴き声がした。男は夢うつつに「鳩だな」と思ったまま眠りつづけた。その後も毎朝、鳩がやってきた。ある日、窓をあけたまま寝たら鳩が入ってきて、男のまくらもとであの独特のリズムで鳴いた。おもしろいのでその日以降、男は毎晩窓をあけたまま眠り、鳩は毎朝まくらもとでホホッホーと鳴いた。男はいつも目をとじたまま「鳩だな」と思っていたので、一度も鳩の姿を見たことはなかった。ある朝、鳩がホホッホーと鳴いた時、ふと目をあけてみたら、それは鳩ではなく、人の生首だった。完

終わり方が非常に唐突である。

私はそれがおもしろい話だった時は特に、いつ誰からどのようにきいた話なのか割と正確に覚えている。この話をはじめてきいた時は、唐突な終わり方にまずびっくりし、そして「意味がよくわからない」と思ったのは覚えているのだが、この話をどこから入手したのかは全くわからないのだ。

なにはともあれ私は怪談が好きである。そして怪談に強い方でもあり、「今回も結局怖くない」という感想を持つことが多い。というのも大抵の怪談は、体験者が自分できっかけを作って恐ろしい目に遭っているからである。私は呪いのビデオをみたりしないし、酔っ払って墓石を蹴倒したりしないし、心霊スポットでわざわざ写真を撮ったりしないので、ほとんどの怪奇は避けられそうな気がする。それで「身にふりかからなそうな怪談=怖くない」という結論に至るのである。

そう考えると、「!」と「?」が頭に浮かぶ、この「鳩の怪談」はかなり個性的な怪談であると言える。この話をきいた翌日、大学で友人のKさんに話してきかせたら、Kさんも「!?」という顔をしていた。しかし本当にこの話、一体誰からきいたのだろうか?そもそもこの話は本当に怪談なのだろうか!?


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# by mag-akino | 2013-07-27 12:09

物忘れ防止法

まだ幼稚園に通っていたある日、私は微熱で幼稚園を休んだ。そして、居間のソファで毛布にくるまってテレビをみていた時のことである。母は掃除機をかけており、私はイヤホンで音声を聴いていたのだが、「ちょっとごめんね」と言って、母がイヤホンのコードをまたいだ時、なぜか「今、見ているこの光景を忘れないだろう」と思い、今でも本当にこの時の光景を覚えている。

この、「『この光景を忘れないだろう』と思う」、というのは、物忘れを防ぐのにかなり効果的である。何か忘れると困ることがある際に「この光景を忘れない」と自分に言い聞かせると、本当に忘れない。「光景」なので、やはり視覚的なことに効きやすい。

私はこの物忘れ防止法のことを、「記憶に付箋を貼っておく」というイメージでとらえている。どうやら私は、記憶とは何か「付箋を貼れるもの」、つまり本とか巻物とか紙に書かれたものだと無意識に思っているようなのだが、最近までそれに気がつかなかった。こういうふうに、形のないものを形のあるものに喩えてイメージする、ということを何か他にもしているのかもしれない。

ついでに、この思い出について書いてみて気になったのは、「光景」という言葉である。幼稚園生の私が「光景」という言葉を本当に知っていたかは疑わしい。知っていたとしても、日常的に使っていたとは思えない。たぶん「この光景」というのを別の言葉で表していたはずなのだが、それがなんだったのかは忘れてしまった。

しかし、記憶が本のようなものだと考えると、忘れてしまったことも、付箋を貼られていないどこかに書かれているはずで、本当になくなってしまったのではないのだと思える。印がないので、なかなかそのページが開けないのである。


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# by mag-akino | 2013-07-26 12:19

十年おきにウサギが送られてくる

人から夢の話をきいておもしろかったことが今までに一度もないのでなるべく手短かに済ませるが、一昨日、ウサギが郵便で送られてくる夢をみた。夢の中で郵便が届き、ラベルを見たら中身が「ウサギ」と書いてあったのである。

この「ウサギが郵便で送られてくる夢」であるが、十年前にも一度みたことがある。たまに「前にもこの夢をみたことがある」と夢の中で思うことがあるが、それをみたのがいつであるか実際にはわからないことが多い。今回、はっきり十年前だとわかるのは、この夢をもとにマンガを描いているからである。

大学を卒業した2003年に、私は『つめきり物語』という五話の短編からなるマンガを描き、自費出版した。その第一話、「今朝みた夢の話」は、十年前のウサギの夢を元にしている。主人公は、夢の中で小包を受け取り、箱のセロファンの小窓ごしにウサギをみつけてドキドキするのである。

十年前、一昨日ともに共通しているのが、ウサギを受け取った時に、「これは困った」そして「でもうれしい」と思っている点である。ウサギはかわいいから飼ってはみたいが、飼うとなると世話も大変だから実際には飼わないだろうけど、届いてしまったらもう飼うしかない、うれしいな、というような気持ちである。十年前、「困った」を通り越して「うれしい」という気持ちになってからもう一度箱を覗くと、ウサギはクリームパンに変わっていた。私は、がっかりし、そして少し安心したのであった。

さて、一昨日である。現在住んでいるニューヨークのアパートにUPSで箱が二つ届いた。一個目の箱にはウサギのぬいぐるみが入っていた。二箱目にはどうやら本物のウサギが入っている気配がするので、また私は「困った」、「でもうれしい」と思ったのである。箱がとても重いので、ベッドに置いたまま側面から開けたら、中から勝手に出て来たのは、とても平たいウサギだった。カエルのピパピパに毛をはやして、耳をつけたような生き物で、ものすごく気持ちが悪くてショックで目が覚めた。今考えるとあれはウサギではない。

夢は、その時に考えていることが反映されたものだと思うので、十年前と一昨日の共通点がないか考えてみたが全然思い浮かばない。十年前は千葉県の実家で大学を卒業したばかり、今はニューヨークに一人暮らしで個展に向けて制作中である。本当に何も共通点が思い浮かばないのだ。特になんの理由もなく、私がどこにいたとしても、これからも十年おきに私に「ウサギ」が届くことになっているのかもしれないが、毎回結局はウサギを受け取れないのだろうか。次に「ウサギ」が届いたら、絶対に送り主をみるつもりである。


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              十年前に「ウサギ」が入っていた箱。
  
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# by mag-akino | 2013-06-09 03:49

宜保愛子さんについて 余談

余談である。
ある日、小学校から帰宅すると、知人が家に遊びにきていた。おやつを食べつつ話しているうちに、私は昨晩観た「宜保愛子心霊スペシャル」のことをふと思い出した。そして、知人に「昨日も宜保さんの霊視はあたっていた」と言った時である。彼はキッパリと「宜保さんの霊視は偽物である」と言い切った。

宜保さんは霊の声ではなく狐の声をきいている、と知人は言った。彼によると、神社に祀られているような位の高い狐以外に、野狐(ヤコ)と呼ばれる狐がいて、それが宜保さんのために働いている、とのことだった。例えば相談者の部屋を霊視する時、その狐を使いに出して、あっという間に部屋を見て帰ってきた狐が耳打ちする、という方法で宜保さんは相談者の部屋の様子を言い当てているのだという。それがどんな遠くにあっても、知らない場所でも狐は一瞬で行くことができる、「だから宜保さんの霊視は偽物である」と説明した。私ははじめて知ることばかりで、ポカンとしつつ聞いていたのだが、知人の口調にははっきりとした宜保さんへの非難が感じられた。

「宜保さんの霊視が本物か、偽物か」については、当時もよく検証番組が放送されていた。特に大槻教授とは何度も対決していたが、大槻教授の言う「偽物」とは「宜保さんは霊視する対象をあらかじめ下調べしておいて、霊視しているように見せかけている」という意味であったと思う。知人の言うように、「宜保さんは狐の声をきいて霊視していた」場合、大槻教授はそれを「偽物」と言っただろうか。知人は狐を使った霊視を「偽物」と言って非難したが、では知人にとっての「本物の霊視」とはどういうものであったのかは私にはわからない。

宜保さんの話のついでに知人は、狐がいかに恐ろしいかを私に語り聞かせた。「コックリさん」とは野狐のことであり、遊び半分で呼び出していると帰ってくれなくなること、道で狐につきまとわれて手で払っている女性を見たことがあるなど、これもまたはじめて聞くことばかりで、子供だった私は心底怖くなった。

この日以降も、私は相変わらず宜保さんの番組を見続けた。宜保さんの霊視が本物か偽物かは別として、私にとって宜保さんは「本物」のままだったということだと思う。そして、知人の話が本当かそうでないかは別にして、私は今まで一度も「コックリさん」をやったことがない。知人の話もまた、私にとって「本当」だったということである。


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# by mag-akino | 2013-05-20 11:25


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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