宜保愛子さんについて その四

ある日宜保さんは、初対面の相談者の部屋の様子を霊視し、それをスケッチブックに描いた。そして、いつものように判読できない仕上がりになり、「これが玄関で、正面に窓、右手の本棚の上に招き猫…」のような感じに、自分で照れながら解説するはめになっていた。

正確な記憶はないが、宜保さんの霊視図は、解説をきいてはじめて「あ、それが窓?」と気づくくらいの曖昧さで、「右手に本棚というけど、図では正面になっているな…」というくらい不正確なものだった。結果的に口頭の解説は当たっているので、子供心に「こんなにヘタならわざわざ図解する必要がない」と思ったのを覚えている。

先日、「絵がうまく描けない一番の原因は、目でみたものを正確に手に伝えられないため」と書いたが、宜保さんの場合、霊視の前に相談者の部屋を見ていない(と私は信じる)ので、これには当てはまらない。宜保さんは「霊の声をきく」という霊「聴」スタイルであり、口頭の説明は正確だが、絵にすると不正確なのである。つまり、宜保さんが絵がヘタなのは「耳できいた情報は正しいのに、それを正確に絵で表現できないため」ということになるのだが、これは「目でみたものを絵で正確に表現する」ことよりだいぶ難しいと思う。先の配線の例でいうと「耳→脳→手」という配線であるが、耳で受けた情報を一旦視覚的なイメージに置き換えてなくてはならない分、「目→脳→手」より複雑である。例えば、他人の部屋に実際にお邪魔して見取り図を描くのと、口頭で説明を受けながらその見取り図を描くことを想像してみると、後者の方が圧倒的に難しそうである。

さらに気になるのが、その、宜保さんが聴いた「霊による部屋の特徴の説明」が的確だったかどうかである。「六畳一間、玄関の正面に窓、右側の壁に本棚、その上に招き猫」などとテキパキ説明してくれたら図解できそうだが、「え〜と、本棚がある、あ、そこじゃなくてこっち側、上になんか変なのがのってる。そういえば窓もどっかにあったなぁ」などと要領を得ない説明をされたら、たとえ絵がうまくても、それをその場で図解するのは不可能だと思う(しかもマジックで…)。そう考えると「宜保さんの絵がヘタなのも仕方ないな」という気がしてくる。そして、「あれだけヘタということは、やはり霊の声をきいていたからに違いない...」という気もしてくるのである。

長々と「絵がヘタな理由」の説明などしたが、言いたかったのはつまり、ファンとして私は宜保さんの肩を持ちたいということである。宜保さんが亡くなって十年、今年の夏こそは是非、「宜保愛子心霊スペシャル」を再放送してもらいたい。

(おしまい)
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# by mag-akino | 2013-05-14 11:27

宜保愛子さんについて その三

たぶん絵がうまく描けない一番の原因は、目で見たものを正確に手に伝えられないためである。目から脳に情報が伝わって、脳から手に指令を出す間に、なんだかおかしなことになってしまっているのだ。「目→脳→手」というふうにイメージが伝わる過程の、「→」のところ、目と脳の間か、脳と手の間の配線か、その両方がゴチャゴチャになっているのである。本当はケーブル一本で直通のところを、なぜか百本くらい経由して苦労して配線したあげくにどこかで間違っている感じである。

この「配線がゴチャゴチャ」の感じだが、私は高校三年生の体育の時間に、痛い程味わった。ジャズダンスの授業で、振り付けを何度みせられても体が全くその通りに動かず、もう先生も私も笑うしかない、という「おねえさんのスプー」並のヘタさだったのである。そういえば、バドミントンのレシーブのテストで、フォームとコースの正確さの試験だったのに、そもそも一回もシャトルを打ち替えせずに0点だったこともあった。目で見て、振り付けもシャトルの位置もわかっているはずなのに、体を動かすとなんだかズレるのである。「なんか脳と体の間の配線がゴチャゴチャになっているな…」とは思いつつ、どうしてもうまくできない、運動音痴の典型である。

はいださんの絵を見ると、あのジャズダンスの時間を思い出して胸が苦しくなる。大人になるとわざわざ自分の苦手なことを人前で披露しないからわからないだけで、意外と、はいださんくらい絵がヘタな人というのはたくさんいるのかもしれない。私も今後人前でジャズダンスを踊るつもりは全くないので、私がジャズダンスが超ヘタ、というのがばれる機会はもうないと思う。

「絵がうまい人は記憶力がいい」というのもよくきくが、この表現は大雑把すぎる。まるで「『目→脳→手』の過程の『脳』の出来が良いから絵がうまい」ようにきこえるが(そういう人もいるだろうけど)、実際には、二カ所の「→」の部分の配線が良い人の方が多いと思う。というのも、自分や美大の友達をみた感じ、絵がうまい人の記憶力がいいかといったらそうでもないからである。たぶん、絵がヘタな人の記憶力が弱いかというとそうでもないのだろうが、大人になると誰が絵がヘタなのかわからないので、具体例があまり思い浮かばない。

ここで、数少ない具体例のはいださんについて改めて考えてみると、そもそもはいださんは歌手なのである。私は運動音痴でもあるが、音痴でもあるので、「耳→脳→喉」の感覚というのはピンとこないのだが、歌がうまい人というのは、たぶんこの配線がすごく上手く言っている人なんだろうと思う。はいださんは、「目→脳→手」よりも「耳→脳→喉」の配線が正確なため、「目」よりも「耳からの情報」を基盤にして生活しているのではないか。

そして「耳からの情報」といえば、宜保さんの「霊の声をきく」というあの霊視スタイルである...。

(さらにつづく)
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# by mag-akino | 2013-05-09 08:42

宜保愛子さんについて その二

そういう訳で、私にとって「宜保さんと言えば絵がヘタ」、「絵がヘタと言えば宜保さん」なのだが、ここ数年「絵がヘタ」の代名詞になっているのが、元「うたのおねえさん」こと、はいだしょうこさんである。

たしかに、はいださんもヘタである。あれはたぶん、私がアニメーション「てんとう虫のおとむらい」を千葉県の実家で制作していた頃だった。夕食前に一休みしようと、居間のテレビでなんとはなしに、「おかあさんといっしょ」を観ていた時のこと。突然、おねえさんが描いた番組キャラクター、「スプーの衝撃」は忘れられない。「この人は本気なのか?」と近藤家内で騒然としたが、本気だったようで、その後何度かテレビで観たはいださんの絵はどれもヘタだった。

絵がうまく描けない人には、いくつか共通点がある。
まず、「筆記具の持ち方が悪い」ということ。極端に絵や文字がヘタな人は、変なふうにペンを持っていることが多い。ペンを傾けすぎ、或は紙に対して垂直に使っているので、線がうまく引けないのである。次は「筆圧が強すぎる、弱すぎる」という点。たぶん強弱どちらも手首から先の力が上手く調整できていないのだが、これも線が上手く引けないので絵がヘタになりがちである。はいださんは、「垂直に持ち気味で筆圧が強すぎる」タイプだった。あのスプーは線が太くてギチギチと狂気じみていたので、ペンを垂直に持ち、緊張してガチガチになった手首で描いたのだと思う。それに対して、宜保さんの絵はもっと短いストロークでフワフワした感じの線だった記憶があるから、「斜めに持ち気味で筆圧弱タイプ」だったのかもしれない。

では、「ペンの持ち方を矯正して手首と指を鍛えたら宜保さんは絵がうまくなるのか?」と言われると、そうでもない気がする。

(まだつづく)
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# by mag-akino | 2013-05-07 12:11

宜保愛子さんについて

ここ十年ほど、夏になっても心霊番組が放送されずつまりませんね。今年は夏に個展があるので帰国しますが、心霊番組がないと思うと夏の日本は湿度が高いだけなので帰りたくありません。

というのは冗談だが、半分本気なくらい、私は夏の心霊番組が好きだった。夏になると本当にもう毎日のようにドシドシと心霊写真特集や、本当にあった怖い話再現ドラマが放送されていた印象があるのだが、あれらはどこにいってしまったのだろうか。

恐らくデジタルカメラの普及で心霊が写り込む隙がなくなったのと、フォトショップの普及で心霊の信用度が落ちたことが原因だとは思うが、宜保愛子さんが亡くなったのも大きな原因の一つだと思う。

本物の霊能者かそうでないかは別として、私は宜保さんが好きだった。相談者の話を聞く時の真剣な眼差しも頼り甲斐があったし、独特のイントネーションのある落ち着いた語り口も引き込まれた。夏とは言わず、年がら年中放送されていた宜保さんの心霊番組二時間スペシャルはほぼ全部観ていたので、宜保さんが本物がどうかに関わりなく、私は本物の宜保さんファンだったと思う。ファンだから「本物だと思うことにしよう」と、私だけでなく多くの人が宜保さんを信じていたのである。

そんな宜保さんが亡くなって、ちょうど十年たつらしい。ご自身の意思で葬儀は親族のみの密葬だったそうだが、宜保さんの死は大きくとりあげられることもなく、ひっそりと亡くなってしまった。亡くなってしばらくの間は「宜保さんが亡くなったと噂できいたけど、それって本当?」と思っていた記憶もあるが、本当にそのくらい静かに、いつの間にかいなくなってしまったのである。

夏が近づいてくると「最近心霊写真をみないな」と気づいて、「そういえば宜保さんは」と考える。そして宜保さんを思うと、必ず思い出してしまうのが宜保さんの絵のヘタさである。宜保さんは霊の声をきいて、事件現場の状況や部屋の中の様子をスケッチブックにマジックで描くのだが、とくかく絵がヘタで何が描いてあるのかさっぱりわからなかった。あまりにもヘタクソで具体的に描いたはずのものが漠然と抽象的になっているので、後づけで七割くらいのものは正解に押し切れるのではないか?というような曖昧さであった。宜保さんご自身も「絵が苦手」という自覚はあったようで、「これはこれを表しているんですよ…」と自分の絵の解説をする時にちょっと照れて笑っていることもあった。私の知る限り世界一絵がヘタな女性である。(そういうところも魅力的でしたよね。)

(つづく)


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# by mag-akino | 2013-05-04 02:01

祖母の曾祖母

私は父方、母方とも曾祖母に会ったことがない。会ったことがないので実のところ親しみがわかないのだが、その曾祖母が祖母の母親だと思うとなんだか恐ろしい。

私は、母親はもちろん、二人の祖母との思い出も多いので、この三人に対して特別な親しみを感じている。そして、二人の祖母に確認したことはないが、きっと祖母達も私と同じように「祖母との思い出」を持っていると思われる。「私の祖母の祖母だから」と無理に自分を納得させて、ギリギリ親しみを湧かせられるのは祖母の祖母までだ。つまり四代前が私の親近感の限界である。

会ったことのない二人の祖母の母、さらにその母のことを考えると不安な気持ちになる。理屈でしか親近感をもてない相手が、祖母にとっては大切な人だと思うとなんだか恐ろしい。屁理屈でも親近感を持てない祖母の曾祖母となると、もう私にとっては「ただの女性」なので、「いてもいなくても差し障りないな」と思うのだが、実際のところ彼女がいなかったら私もいないのだから、その、祖母の曾祖母はじめ、それ以前の無数の「ただの女性たち」は、漠然とした脅威である。「一人くらいいなくてもいいじゃないか」と頭をよぎった瞬間に「いなかったらお前は」と何千という「ただの女性たち」に詰め寄られそうな圧迫感がある。

そんな訳で、全員存在していたことは渋々認めているのではあるが、その順番を崩すくらいならいいのではないかと最近思っている。遥か昔から細々と続いている糸を切ってはいけない気がするが、どこかに結び目を作って時間の前後を狂わせるくらいならギリギリセーフではないかと思うのだ。つまり、「祖母の曾祖母」と「祖母の曾祖母の母」を逆にするくらいいいのではないか、ということだ。私が頭の中で逆にしたところで誰も気づかないし、何も変わらないのである。

そして、どんどん時間がたって、私の五代後の「ただの女性」が、同じように私と私の母を入れ替えても良いように思う。そう考えると、五代も待たずに今から私の母と祖母を「私の娘だ」「私の孫だ」と思ってもまあいいんじゃないか、と、ここところ、私よりも体の小さくなった祖母や母をみると思うのである。

そもそも頭の中の糸の話であるし、私が子供を産まなかったらここでおしまいの話である。また、「ただの女性」の夫として存在したはずの「ただの男性」に関しては、糸の一部であるとなはなぜか全く思えないのも勝手な話である。

男性アーティストが「死ぬ前に自分の美術館を作りたい」と言ったのをきいた時、私は一度もそう思ったことがなかったので驚いてしまって、忘れられない。きっとそれは彼にとっての「無数のただの男性からの脅威」と関係しているのだと思う。


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# by mag-akino | 2013-04-07 04:06


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


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近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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