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飛んでいったネジの話

夏の間、日差しがまぶしいので安物のサングラスをかけていた。安物のせいかよくネジが外れた。本体と左側のツルの接合部のネジで、とても小さい。二ミリくらいである。

はじめてネジが外れたのは、地下鉄から降りて、ポケットからサングラスを出してかけようとした時である。左側のツルが突然とれたので驚いた。ポケットを探ったら小さいネジが入っていたので、慎重につまみだして、爪の先で回して修理した。

それからも何回か外れた。毎回出先であった。「今度こそネジがなくなったかな」と思い、ポケットや鞄の底を探すと、毎回ちゃんと出てきた。本当に極小なので、毎回なくしたのかと思うのだが、毎回実はあるのである。

先日、帰宅して鞄からサングラスを出したらまたツルが外れていた。鞄の荷物を全部だし、底の隅を探ったらネジがみつかったので、いつものように修理しようとしたら、うっかりネジを落としてしまった。机の上で一度弾んだところまでは見ていたのだが、その先がわからなくなった。

地下鉄の中や、道端で修理する度に、「今ここで落としたら絶対に見つからない」と思って注意していたのである。今回は自宅なので油断した。なんとなく飛んで行った方向を探していみたが、みつからなかった。床の掃除をしてみたが、出てこなかった。家の中には絶対にあるのだが、完全になくしものである。

家の中にあるのはわかっているので、まだなくしたと認められない。以前、マンションの七階からエビが飛んでいった、と思ったら台所から出て来たこともあるので、サングラスはとっておこうと思う。そのうち、思いも寄らないところから出てきそうである。


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# by mag-akino | 2014-09-30 07:05

いつもより長い

先日の夜、普段からよく行くレストランに向かって、いつもの道を歩いていた時のことである。アメリカ人の友達と一緒だったのだが、会話が途切れた瞬間にふと「この道、いつもより長くないか?」と思った。そこで友達に「この道、いつもより長くないか?」ときいたら、「確かに長い」と答えたのだった。

こういう感じを昔の人は「狐に化かされる」と言ったのかもね、と言いたかったのだが、「狐に化かされる」というのを英語でどう言えばいいのかわからなかった。いろいろ説明してはみたものの、伝わらなかったようである。友達は「つまりそれはイソップ童話かなにかの、小鳥をおだてて口元で歌わせて食べてしまうキツネ、みたいなことだろう」と言った。全然伝わっていない。そうこうしているうちにレストランに着いた。感覚的には「いつもの二倍弱」長かった。

そういえばこんなこともたまにある。

私はアパートの四階に住んでいる。エレベーターがないのでいつも、あと二階、あと一階、となんとなく数えながら歩いて上っている。降りる時は数えない。数えないでただボンヤリ降りているのだが、たまに降りる途中でふと「いつもより多く降りてないか?」と思うことがある。いつもより一階分多く降りている気がするのである。これも「狐に化かされた」ように感じる。

どちらも測ったり数えたりしていないので、正確にはわからないが、本気で「狐に化かされた」と思っている訳ではない。たぶん気のせいである。先日の場合、「いつもより暗かったこと」がいつもの二倍弱に感じた原因だと思う。夏の間は日没前にレストランにたどり着いていたのだが、ここのところ日没が早くなり、先日そこを歩いた時はもう日がくれていた。明るいと庭の花などを眺めながら楽しく歩けるのだが、暗いと眺めるものがなくて暇なのである。暇なせいでいつもより長く感じたのだろう、と友達に言ったら、これはスンナリ通じた。

なかなか伝わらないことと、スンナリ通じること、のどっちが正解っぽいかというとスンナリ通じた方だと思う。(つまり当たり前なのである。)しかし、どっちが正解だった方がおもしろいか、というと、なかなか伝わらない方だと思う。いつもより一階分多く降りているように感じる件に関しては、今のところスンナリ通じそうな理由が思いつかないので、おもしろいままである。


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私は狐に化かされたような気がした。
I felt as if I had been bewitched by a fox. 
# by mag-akino | 2014-09-23 09:55

「よく見ろ」

私が11か12の日曜日のことだ。誰からかは忘れたが、何か箱に入ったものをいただいた。私はその箱をあけようとしていたのである。しかし、その箱がどうしてもあかないのだった。

変わった作りの箱で、どこが蓋でどこが本体かもよくわからなかった。適当に蓋っぽいところを引っ張ったりしてみたのだが、どうしてもあかないので、そばで新聞を読んでいた父に「あけて」と差し出した。父は一言「よく見ろ」と言って、また新聞を読み始めた。

私は仕方なくもう一度箱を見た。箱の角をそれぞれよく見てみると、蝶番の部分の構造がわかった。蓋と本体の境もわかったので、そこに爪を入れて引っ張ってみたら箱があいた。

今でも箱を開ける時はもちろん、「なんかよくわかんないな」という時に、この言葉を思い出し実行している。よく見てみると、わからないものがわかるようになることは実際に驚くほど多い。たぶんそんなつもりで言ったのではないと思うが、この父の「格言」はかなり役にたっている。

一方、母の格言は「目を見て話さない人を信用してはならない」というものであった。この言葉は、大人になった今考えてみると疑わしいところがある。長い付き合いの仲の良い友人で、今まで一度も目が合ったことがない人がいるが、彼女はただの照れ屋であって、信用して大丈夫である。母の言いたいこともわかるが、子に授ける格言対決では父の圧勝である。

どちらの格言も子供の頃に授かったので、両方組み合わせて素直に取り入れてしまい、「人の目を必要以上によく見る」悪い癖がついた。


「よく見ろ」_b0221185_23231010.jpg

見すぎ。
# by mag-akino | 2014-07-25 23:26

「女子中学生」と大便事件

六月の帰国中、写真家の梅佳代さんと編集の田中さんと三人で食事をすることになった。私のエッセイマンガの担当の田中さんが、梅佳代さんとも親交があり、せっかくなので三人で御飯でも食べてみませんか、と誘ってくださったのである。

梅佳代さんとお会いしたのはこれが二度目である。一度目は、この数日前、現在開催されている展示のレセプションであった。そして、「女子中学生」というのは、この展示で梅佳代さんが出品している作品のタイトルである。

「女子中学生」は、恥ずかしいような切ないような不思議な作品である。私個人の印象で失礼ながら簡単に説明すると、女子中学生が仲間で盛り上がっているうちにたがが外れて、本当は人にみせてはいけない部分をさらけだしてしまった瞬間を、まだ十代だった梅佳代さんがすかさず押さえた作品である。みていてなんだか恥ずかしくなるのは、「自分にもそんなところがあったな」と思うからで、切なくなるのは「自分はもうああはなれないな」と彼女たちの明るい笑顔をみて感じるためである。

写真家というのもまた、私にとっては不思議な存在である。先日、メトロポリタンミュージアムで開催されているGarry Winograndの展示会場で、「New York World's Fair」という作品を観た時にも感じたのだが、「どうしてこの瞬間を撮ることができたのか?」と不思議なのだ。現像された写真を観ると「ああ、私もこういうハッとする光景を見たことがあるなぁ」とは思うのだが、私にはそれが撮れないのである。その瞬間にシャッターを切った反射神経ももちろん素晴らしいのだが、何かに「ハッとする」感覚自体が鋭いのだろう。私にそれが撮れないのは、そういう瞬間に「ハッとしなかった」か「ハッとしたことに気づかなかった」からだと思う。

そう言えば、レセプションの最中に、梅佳代さんがシャッターを切った時も驚いた。キュレーター・館長の言葉の後、壇上に並んだ作家の紹介が終わった時、お客さんが拍手を始める前の一瞬のところで、私の隣に立っていた梅佳代さんが突然、壇上からお客さんに向かってシャッターを切ったのである。あの、なんだか変な一瞬の間のことを思い返すと、やはり「ハッとする」のであるが、私はその時には気づかなかった。それにしても一瞬のことであるから、もしかしたら「ハッとしてからシャッターを押した」のではなく、「ハッとする予感がしてカメラを構えて待っていた」のかもしれない。そのくらいの素早さであった。

さて、六月のその日、恵比寿で真面目に打ち合わせをすませた田中さんと私は、「すっかり馬喰町で待ちくたびれている」という梅佳代さんの元へ向かった。(なぜ、待ち合わせの時間が決まっていたのに、待ちくたびれる状況になるのかがよくわからない。)

ちなみに梅佳代さんと私は、生まれ年は違うが同じ学年の同級生である。大学卒業以降、同級生と出会うことはめったになくなり、その日私は「久しぶりに同い年のお友達ができるのでは」とときめいていた。そんな訳で、馬喰町で合流した私たちは、嵐の大野君、小池栄子、壇蜜などが同じ学年である、と同級生ネタで盛り上がった後、「女子中学生」の話になったのである。女子中学生の頃はああいう「力」みたいなものがありましたね、と三十三歳同士で納得していたら、ふと高校生の時に友達からきいた話を思い出したのだった。

私が通っていた美術予備校で、別の高校に通っていた一つ歳上の女の子からきいた話である。中学の修学旅行の夜、なんだか盛り上がった彼女たちは、最終的には大便を投げ合ってしまったというのだ。

ふと思い出して話したら、二人があまりに驚愕してくれるので、私もつられて「改めてビックリ」してしまった。オチャビ時代にきいたオモシロエピソードの一つと思っていたが、確かによく考えるととんでもない話である。まず、どういう経緯で①自分の大便を人にみせ、②それを手に取り、③人に投げたのか、全然わからない。(キャッチボールのように投げたか、雪合戦のように投げたのかは知らない。)①から③まで、どれも「越える」のにかなり気合いがいる高い壁であり、どういう盛り上がり方をしたら、そこを乗り越えられるのはわからないし、超えたくない。私たちはひとしきり驚愕した後、そういうことができるのも「女子中学生の力」なのかもしれませんね、と三十代の女三人でシミジミしたのであった。

ニューヨークに戻ってからも度々「大便事件」のことを思い出しては「女子中学生って恐ろしい」と思っている。しかし、三十代の私たちも、「大便事件」で驚愕した後、どういう流れか忘れたが、最終的には三十代女性の結婚と出産、そしてワーキングプアなど、真面目な話をして「ニューヨークにも遊びに来てね〜」と別れたのだから、まだまだ「飛躍する力」は残っているようである。



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# by mag-akino | 2014-07-05 05:30

まだ産んでいない子供

ニューヨークに住み始めるちょっと前の2008年のことである。私は夢の中で子供を産んだ。女の子であった。そして私は夢の中で、子供の親と思われる男性に向かって語り出した。

この子の名前は「窓乃」にする。風を通す窓のような人になるように、という意味を込めた「窓」に、私の名前から「乃」の字を取って「窓乃」である。そして「まどの」は「ノマド」のアナグラムでもあり、どこに行っても強く生きていけるように、という願いが込められている。

このように、相手に有無を言う隙を与えぬ素早さでテキパキと宣言したところで目が覚めて、私は「ガ〜ン」とした。というのも、私は妊娠出産はおろか結婚のことさえ、全く考えたことがなかったからである。私は「ガ〜ン」としたまま、「ノマドって何だっけ?」と辞書をひいたのであった。ついでに夫と思われる男性についても思い返してみたが、ただ「男性」というだけで、日本人かどうかも全く思い出せなかった。

この夢をみてから、子供を産んだら「窓乃」と名付けなくてはいけないのではないか、という思いにとらわれている。夢から六年たって、私はまだ子供を産んでいない。実際には存在していない子供なのだが、名前がついてしまったので、「まだ産んでいない子供」のように感じられる。たまに「まだ死んでいる子供」というふうにも思う。



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ところで、出産の夢って、とても縁起がいいらしいですね。
# by mag-akino | 2014-03-27 06:31


アーティスト近藤聡乃ニューヨーク滞在制作記


by mag-akino

近藤聡乃 / KONDOH Akino

2012年5月までの文章が本になりました。

不思議というには地味な話』(ナナロク社)

57編、すべてに描き下ろし挿画つき。26ぺージの描き下ろし漫画「もともこもみもふたも」も収録。



2000年マンガ「小林加代子」で第2回アックス新人賞奨励賞(青林工藝舎)を受賞し、2002年アニメーション「電車かもしれない」で知久寿焼(音楽グループ、元たま)の曲に合わせてリズミカルに踊る少女の作品で NHKデジタルスタジアム、アニメーション部門年間グランプリを獲得。シャープペンを使って繊細なタッチで描くドローイングに加え、最近 では油彩にも着手している。2008年、2冊目のマンガ単行本「いつものはなし」(青林 工藝舎)を出版。

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